地球の覗き方

地球のことをのぞいてみよう

 もう開花宣言から5日が経っていたが上野公園の桜はまだ3分咲きといったところだった。今年は桜を長く楽しめそうだと思う。歩いていると、桜の木の下に人垣ができているところがある。その木は他の木よりもいくぶん早く開花してはいたので桜の花を撮っているのかと思い近づいてみると、毎年恒例の上野の花見猫で、猫が愛嬌を振りまいていた。

IMG_5518
【2016.3.26】上野の花見猫

 首にシュシュを巻いているのをみると、それが飼い猫であるということが分かる。高いところにのぼりたがるという習性が猫にはあるというが、この猫は人によって乗せられたものである。
 毎年桜の季節になると猫おじさんというのがやってきて、桜の木の幹に乗せる。それから、猫おじさんはその場から少し離れたところにいて、木の下に人垣ができるようすを楽しんでいるという。「みんなを楽しませたい」「みんなが喜ぶすがたがみたい」というよりは、「世間を騒がしてみたい」という承認欲求のようなものを感じる。数年前はテレビ局の取材まで呼んでしまったくらいだから、その味をしめてしまったのだろう。

IMG_5519
【2016.3.26】上野の花見猫

 このほほえましい光景が、おじさんの「世間を騒がしてみたい」という承認欲求の具現だと思うと、複雑な気持ちになる。「世間を騒がしてみたい」という欲望が極端に表出するものといえば「テロ」という不特定多数に向けられる暴力があるけれども、不特定多数に向けられる愛嬌というこの「猫テロ」には他者への暴力性はないから、そう複雑な気持ちになる必要もないのだろうかと、昨今の世の中の情勢を考えながら思う。



 西日暮里の住宅街を歩いていた。ゴミ収集車が停められていた。

IMG_5473
【2016.3.26】西日暮里にて

 後ろの方に何かがある。なんだろう。よく見ると、リラックマが挟まっている。人形を放り込んだら、ぷりっと出て、ゴミ収集車の外へとはみ出してしまったのだろうか。いや、ゴミがぷりっと漏れ出してしまうような穴なんか収集車には開いてなかったはずだ。そもそも、中からゴミが出てしまったらそれは欠陥のある収集車だ。ゴミ収集車がかえって街を汚してしまうことになる。
 そもそもゴミ収集車はゴミを放り込むと、回転板と押込板によってそれを圧縮し、内側へと押し込む構造となっていて、その時は、非常に強い圧力がかかるはずだ。時に、作業員が回転板や押込板に巻き込まれ死亡するという悲惨な事故が起こるほどだから、そのような圧力をかけられてリラックマが無傷でいられるはずがない。きっとこれは作業員が、ゴミ集積所に置かれているリラックマを他のゴミと一緒に放り込むことを忍びなく思い、そっと拾い上げて、収集車の側面の凹みに乗せてあげたものなんだと思う。少しでも長く生きていられるように。
 今まで僕はゴミ収集というものは、決められた曜日に、決められた集積場に行き、集まったゴミを収集車に投げ込むという規則的で機械的な作業とばかり思っていたけれども、そう割り切れるものではなかったようだ。たくさんの人の思い出を、思い出の持ち主の代わりに最終処分してやるという、重要な役割を担っていたのだと思う。あのリラックマの人形を僕らは直接自分の手で収集車の回転板へと放り込むことができただろうか、自分の手で火をつけて燃やしてしまうことができただろうか。僕だったらごみの集積場に置き去りにすることがやっとで、それ以上はできなかったと思う。



 蚕室(잠실)。ロッテワールドがある街で、高さ555mにもなるロッテワールドタワーが立つ。韓国で、蚕室といえば誰もがロッテを思い浮かべるが、蚕室にある石村湖水(석촌호수)は桜の名所としても認知されていて、日本にも負けずとも劣らない桜のすがたを楽しむことができる。

IMG_1967
【2015.4.10】蚕室にて

 僕は、石村湖水が好きだった。

IMG_1985【2015.4.10】石村湖水にて

 故郷、東京の不忍池(しのばすのいけ)の面影を見出していたからだと思う。共通点といえばそれが都市の中にあること、池の外周に桜が植えられていることくらいなのだが、石村湖水が好きだった。

IMG_1990【2015.4.10】石村湖水にて

 このあたりはソウルの桜の名所の中でも、比較的早くから咲き始め、早く散ってしまう。ソウルで桜を楽しむなら、まず平地の桜を、それから山の桜を楽しめばいい。同じソウル市内にはあるが、ピークが1週間ほどずれることもある。すぐ散ってしまう儚い桜ではあるが、ソウルは東京よりも長く楽しめる。

IMG_1996【2015.4.10】石村湖水にて

 たくさんの人が池の外周を散策しているが、不忍池よりずっと広いため、一周するとなかなかの運動量になってしまう。石村湖水はふたつの池に分かれているが、それぞれ外周は1.2kmほどある。

IMG_2004【2015.4.10】石村湖水にて

 桜の木々の間から、超高層ビルがにょっきりと姿をあらわす。石村湖水があることからも分かるように、この付近はもともと沼地で地盤が悪い。そのようなところにこのような超巨大建造物を建ててしまったため、もしかして倒れてしまうのではないかと、韓国では評判がすこぶる悪い。土中の水流に上から重しを載せているようなことをしているので、石村湖水に流入する水量が減り池の水位が低下するなど、周辺住民を心配させている。

IMG_2008【2015.4.10】石村湖水にて

 さくらまつり(벚꽃 축제)の期間には、夜にはライトアップされ、夜桜を楽しむこともできる。

■石村湖水
 地下鉄2, 8号線「蚕室(잠실)」駅から徒歩4分

■ソウルでお花見をしよう
#0206.ソウルでお花見をしよう - 汝矣島(여의도)
#0207.ソウルでお花見をしよう - 南山(남산) 
#0208.ソウルでお花見をしよう - 黒石洞(흑석동) 
#0209.僕が退学したソウル大学の桜
#0210.ソウルでお花見をしよう - 新村(신촌)
#0211.ソウルでお花見をしよう - 石村湖水(석촌호수)



 新村(신촌)は、延世大学(연세대)、梨花女子大学(이화여자대)、西江大学(서강대)といった有名大学に囲まれた地域だ。ソウルで最も繁華な学生街で、深夜までずっと賑やかなところだ。この街は学生街、遊びに行くところとして有名であり、桜を見に行くところとしては認知されていないけれども、春になると名前だけの「さくらまつり(벚꽃 축제)」が開かれる。これといって特別なイベントは行われない。商店会が客寄せのためにやっているんだと思う。

IMG_1914
【2015.4.8】新村にて

 あくまでも客寄せのための名前だけの「さくらまつり」ではあるが、新村の春は美しい。
 僕は、ソウルでの3年半にわたる留学生活の最初の1年間をこの街で過ごした。2012年3月26日、キャリーバッグひとつでソウルの地にやってきて、新村に行き、不動産屋さんで家賃50万ウォン(当時のレートで3万5千円程度)のワンルームを契約した。日本で勉強しただけの韓国語の能力はまだ未熟で、「この大家さんには債務はありません。安心してください」という言葉の「債務」の部分が聞き取れず、その部分を何度も聞き返した覚えがある。東京生まれ東京育ちの僕は、23歳の春まで一人暮らしというものをしたことがなく、新村での生活が僕にとって初めての一人暮らしとなった。高揚感と不安感の中始まった韓国生活。ほどなくして、桜が咲いた。

IMG_1923【2015.4.8】新村にて

 桜はホームシックをいくらか、軽減してくれた。故郷で見慣れていたものが、異国の地にもあるということは、心強かった。

IMG_1925【2015.4.8】新村にて

 ちなみに、この新村の繁華街にはメインストリートといえる通りが2本あった。そのうち1本は銀杏並木で、もう1本は桜並木であったが、リノベーション事業のため2014年から2015年にかけて、両方とも桜並木として整備された。
 坂を登ると、地方から上京した学生たちや、留学生が住んでいる下宿村が現れる。

IMG_1944【2015.4.8】連翹と桜

 連翹と桜が咲き誇る。韓国らしい取り合わせだ。
 丘の一番高いところには、滄川公園がある。

IMG_1952【2015.4.8】滄川公園

 急峻な坂の上にあるからか、あまりたくさんの人は通りかからない。付近の住民がいるばかりだ。
 2012年4月30日、この近くで殺人事件が起こった。被害者は女子大学生だったのだが暴行には男子高校生が関わっていたため、社会に衝撃をもたらしたが、語学学校の友人たちはあまり気に留めているようすはなかった。報道番組を聴くには、韓国語能力がまだ十分ではなかったからかもしれない。

IMG_1953【2015.4.8】滄川公園

 もう幾年もが過ぎ、その間にも衝撃的な事件はたくさん起こったから忘れさられてしまっただろうが、僕にとっては一人暮らしを始めてから間もない時期だったから、今もなお覚えている。
 このように書くと、新村という街があたかも治安の悪い街であるかのように思われてしまうかもしれないけれども、こういった怨恨による殺人事件というのはどこでも起こりうるもので、たまたま、この街で起こってしまったのだたと思う。普段は極めて、平和な街だ。

IMG_1955【2015.4.8】滄川公園

 思い入れのある春の景色だ。

■ソウルでお花見をしよう
#0206.ソウルでお花見をしよう - 汝矣島(여의도)
#0207.ソウルでお花見をしよう - 南山(남산) 
#0208.ソウルでお花見をしよう - 黒石洞(흑석동) 
#0209.僕が退学したソウル大学の桜
#0210.ソウルでお花見をしよう - 新村(신촌)
#0211.ソウルでお花見をしよう - 石村湖水(석촌호수)



↑このページのトップヘ