夕食を食べに、パリの街に出る。

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【2017.3.19】パリにて

 無人運転が特徴の、パリメトロ14号線に乗車する。

IMG_1088【2017.3.19】パリメトロ14号線

 14号線は座席がカラフルだ。

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 ところで、地下鉄に乗っていると、地下鉄が途中で緊急停止し、地下鉄のトンネル内に閉じ込められる。無人運転だから、運転手も車掌もいない。案内放送もない。ただ乗客だけが、トンネル内に閉じ込められる。乗客は不安げに、お互いを見合う。停電はしていなかった。

 僕 : 「何が起こったのだろう」
 友人 : 「さあ。めったに起こることではない」
 僕 : 「パリのことだからまさか、テロだとか」
 友人 : 「うむ。そういうこともあるかもしれない。どこかの駅に不審物が見つかった、そういうこともあるかもしれない。最近のパリはテロの兆候に対してはやたら過敏だから、それくらいのことでも、地下鉄の運行を停止することがある」

 しばらくすると、外部から車内に、放送が入る。フランス語だから聞き取れない。友人がそれを聞き取っている最中、辺りの乗客を見回してみる。その反応は、「くたびれた」といった感じだった。何か、危機がせまっているというようすではなかったが、すぐに電車が動き出すといった内容が含まれているようすはなかった。

 友人 : 「『ただいま、電車に技術的な問題が発生しています。技術者をトンネル内に送っているところです。原因を調査しますので、しばらくお待ちください』と言っている」

 無人運転は、いざという時には、不安がある。

 僕 : 「停電しなければいいけれども。ところで、技術的な問題とは何だろう」
 友人 : 「分からない。運行の停止が、もしテロだとか、不審物が原因だったとしても、乗客を混乱させるわけにいかないから、『技術的な問題』というだろうし、その言い方では何が真実なのか分からない」

 また放送が流れる。乗客の反応は、依然として「くたびれた」といったとようすだった。言語が分からなくても、乗客のようすを見れば大体、見当がつく。
 それから、15分ほどが経過しただろうか。外から車両をトントンと叩く音が聞こえ、乗客の表情に「期待」が芽生える。ドアのうちの一つが外から開けられて、技術者が乗りこんで、フランス語で何か言う。「ご迷惑をおかけして、申し訳ございません。原因を特定しますので、しばらくお待ちください」と言ったという。
 それから、技術者は車両外に出て、また、乗客だけが残される。しばらくしてからまた、放送が流れる。この放送に対する乗客の反応は「安堵」だった。

 友人 : 「10分以内に次の駅まで運行を再開します、だって」

 それから本当に10分ほど経ってから、電車は次の駅に向かって動き出した。
 30分以上、閉じ込められていたと思う。パリの地下鉄は、携帯電話の電波がよく入らないから、地下鉄のトンネル内に閉じ込められてしまっては、外部と連絡する手段もない。今回はフランス語を解する友人がいたから心強かったものの、もし1人で乗車している時だったら、とても不安だったと思う。
 その前の日の3月18日、パリ・オルリー空港でイスラム過激派の男が、巡回中の女性兵士の銃を奪い、「アラーのために死ぬ」と叫んだところを他の巡回中の兵士によって射殺されるというテロ未遂事件が発生して、しばらくの間空港が閉鎖されていたところだったから、なおさらだ。(これは、3月20日に、オルリー空港を利用するという旅程を立てていたから、気がかりであった)
 結局、僕たちがしばらくの間地下鉄に閉じ込められていた3月19日には、テロがあったという情報はのちにも耳にできなかったから、本当に何か技術的な問題が発生していたのだろう。
 14号線の電車は、Cour Saint-Émilion駅に到着してから、運行をとりやめた。少なくとも30分は閉じ込められていた。

IMG_1091【2017.3.19】Cour Saint-Émilion駅周辺にて

 もう1駅先まで進んでいたならば6号線との乗換駅だったからよかったのだが、14号線の単独の駅だったから、1駅分歩く必要があった。
 このあたりはセーヌ川沿いにあり、19世紀から20世紀へとまたがるころに、舟運でパリへと集められたワインの倉庫があったところを、再開発して商業施設にしたところだという。

IMG_1092【2017.3.19】Cour Saint-Émilion駅周辺にて

 地下鉄の運行停止のおかげで、思わぬものを見られたから、よしとしようか。

IMG_1093【2017.3.19】パリにて

 パリで何かトラブルが起こると、テロを疑ってしまう。

IMG_1094【2017.3.19】パリにて

 何が問題が起こればテロではないかと疑い、余計な緊張を強いられる。パリ市民はすでにそういう状況に慣れてしまっているのかもしれないが、僕は慣れてはいない。緊張の、30分だった。