中国に行くと、どの都市も、たくさんのビルが目下建設中で、ちょうど日本の高度経済成長期もこのような感じだったのではないだろうかと思う。工事現場から発生する粉塵や騒音、そして、ひっきりなしに出入りするトラック。生活環境としてはさほどよいものとは言えないだろうが、進歩を感じる。
上海でも例外ではなく、都心部では再開発が積極的に進められている。

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【2016.3.7】老西門周辺

 このような下町の街並みもこれからもずっと見られるものではないのかもしれない。老西門のこの一角は1926年、フランス租界の居住地(里弄)として建てられから、すでに90年もの年月が過ぎ、「生きた歴史遺産」となっているが、この周辺でも再開発が進められている。

IMG_4797【2016.3.5】取り壊されていく街

 ちょうど大きな工事現場の仮囲いの間から中を覗けたので、中を覗いてみたところ、街が区画ごと取り壊されていた。後ろに大きなビルが建っているが、そういったものがここにも建つのだろう。

IMG_4799【2016.3.5】取り壊されていく街

 何世代にもわたって人々が生活してきた風景が、ブルドーザーによって失われてしまう風景というのは、見ていて心が痛む。
 しかしだからといって、こういった再開発にノーをいう権利も僕にはないようにも思う。例えば、こういった住居は古く、トイレなどの水回りに問題のあり、現代人の生活には適さないものがある。古くからの生活の景色が残っていてほしい、上海が中国の他の都市と同じような没個性的な都市になることは望まないという主張は、居住者に先進的な生活をしないでよいという、不便な生活を続けていてほしいと言っているようなものだ。もちろん、現代人の生活にふさわしいものになるよう、既存の施設を修繕していければよいと思うのだけれども、金銭的な問題もあるし、中国全土からたくさんの人が集中する上海で逼迫する住宅の戸数を増やすには、その手法では適わない。そのためには、スクラップ・アンド・ビルド式の再開発が効率的なのだが、これは東京が歩んできた、あるいは、今も歩んでいる道のりと全く同じで、さらにいえば、人口密度が高く、都市人口比率が上昇する時代にある、東アジアの大都市においてはどこも変わらない。

IMG_4800【2016.3.5】取り壊されていく街並み

 しかしそうやって都市を発展させて果たして東京人は幸せになれたかというと、必ずしもそうとは言えない。コンクリートジャングルと揶揄され、心の渇きを感じるような都市になってしまった。
 だからこのような、 スクラップ・アンド・ビルドの現場を見ると、上海も東京と同じ轍を踏んでしまうのかと寂しい気持ちになる。老西門周辺は、いつまであのような街並みを保っていられるだろう。