地球の覗き方

地球のことをのぞいてみよう

2016年02月

 さらに上を目指していく。

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【2016.2.16】金頂

 扉を入るとまず「轉運殿」という建物がある。その建物の内部には、元代の14世紀初頭に鋳造されたという銅殿がある。この銅殿はもともと頂上に置かれていたものだが、のちに明代の1416年に現在の建物が建てられるとその役目を終え、下に降ろされたという。轉運殿の内部は光が届かず真っ暗だが、内部に置かれた銅殿の周りを一周できるよう、人ひとりだけがやっとのことで通れる幅の通路がある。これを一周すると、運が上向くという。古代のお化け屋敷といえばその神聖さを欠くような気がするけれども、そのような面白さがあるのでぜひ体験してほしい。(残念ながら轉運殿の写真は撮っていない。)
 さらに進んでいく。
 
IMG_3925【2016.2.16】参拝路

 朝の東京の地下鉄の駅よりも混んでいる。

IMG_3932【2016.2.16】金頂からの景色

 しかしながら目に入る景色はすべてが絶景で、来た甲斐があったと思う。人が多い観光地というものはあまり好きではないけれども、武当山の金頂に関していえば、その混雑が全く気にならないほど美しい。それにたくさんの人がいるから、かえってご利益があるようにも思える。たくさんの参拝客に押されつ、揉まれつというのもそれもまた、聖地のすがただと思う。

IMG_3933【2016.2.16】金頂からの景色

 山の向こうには街が見え、湖のようなものも見える。

IMG_3936【2016.2.16】南岩宮を見下ろす

 ずっと下のほうに南岩宮が見える。今日の朝、あのあたりから登りはじめたのだ。
 そして、ついに頂上にたどり着く。

IMG_3940【2016.2.16】金殿

 金殿という建物がすがたをあらわす。明代の1416年に、北京で鋳造されてからここに運ばれ組み立てられたものだという。金メッキが施されているが、300キロの金が使われているという。京都の金閣に使われている金閣に使われている金箔は20キロだというから、これが事実なら、黄金の国ジパングも敵わない。もちろん300キロとはいっても、純度の低いものであったかもしれないが。
 それにしても、このように電気をよく通す金属製の建物を山頂なんかに置いたら、雷を引き寄せてしまいそうなものである。夏の大気の不安定な季節に金殿にやってきたところ、運悪く雷に打たれ死んだ不幸な参拝客も今までいたのではないだろうか。そういう危うさに挑戦するからこそ、ここに来ることにご利益があるのかもしれない。
 いくらかお賽銭をして、手を合わせておいた。

IMG_3941【2016.2.16】金頂からの景色

 ちょうど下の方の人でごった返しているところが、さきほど香炉のあったところだ。人に揉まれながら ずいぶんと登ってきたことに気付く。

IMG_3944【2016.2.16】大吉

 たくさんの人がおみくじを引いていたから、僕もおみくじを引いてみることにした。30元(約510円)のおみくじである。風が強いから、紙が飛ばされてしまいそうだ。

大吉

 なんと大吉が出てきた!

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 帰国後、よく読んでみると基本的にはいい内容ばかりが書かれていることは分かったんだけれども、いまこそ栄華を享受する時だ(此日榮華正及時)という文言はいささか心にひっかかった。人の栄華は儚いという通り、栄華というのは今後の凋落を予感させる言葉であるから…。
 もしかしたら大吉というのは素直に喜んでいいものではないのかもしれない。これ以上の運気の上昇は見込めないという宣告なのかもしれない。いや、それは考えすぎか。武当山の神様を信じることにしよう。

■武当山旅行記
#0148.武当山旅行記1 - 武当山へと入山する
#0149.武当山旅行記2 - ここは仙人の住む里か
#0150.武当山旅行記3 - 武当山で迎える朝
#0151.武当山旅行記4 - 南岩から金頂へと登っていく
#0152.武当山旅行記5 - 神秘の灰が降る金頂
#0153.武当山旅行記6 - 金頂で大吉を引く
#0154.武当山訪問記7 - 五行糕を食べてからロープウェイで下山する
#0155.武当山旅行記8 - 太子坡、そして下山



 いよいよ、金頂だ。武当山で一番標高の高い、天柱峰の頂上にあり、最高海抜は1612mになる。南岩から約2時間半の道のりだった。4.5kmとあったが、そのうちの半分の距離はすべてが階段であるため、楽な道のりとはいえない。

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【2016.2.16】金頂

 金頂付近は混み合っていた。南岩から徒歩で登ってくる人に加え、瓊台からロープウェイを利用して登ってきた人とが合流するからである。午前10時半にしてこの程度の混みようである。人混みが嫌いだというなら、日の出とともに出発するのが賢明かもしれない。
 金頂にも宿があり、宿併設の食堂があった。ちょうどロープウェイ乗り場の横に、「武當山金頂貴賓樓(武当山金顶贵宾楼)」というのがある。少しお腹が空いていたから、ここで食事をとることにした。食堂の規模は小さく、4人が座れるテーブルが3つか4つあるくらいだった。ストーブはあったが、食堂の隅で衛星放送の時代劇をみているおばさんの足元を温めているだけで、室内全体を温めてはいなかった。そこにいる人はみな、食堂内ではダウンを着こんでいた。メニューをとりにきた若い女性も例外ではなかった。百貨店の職員がみな制服のようにダウンを着こんでいた武漢と同様、湖北省では暖房はあまり使われているようすはなく、室内でもとにかく着込んで寒さをやり過ごすようだった。山を登ってくる時は体が十分、温まっていたけれども、座ってしまうと急に体が冷えてしまう。温かいお茶でなんとか体を温かくする。

IMG_3850【2016.2.16】昼食

 野菜をふんだんに使った麺料理がおいしいとおすすめされたので、注文する。武当山は道教の聖地であるため道教食の影響なのか、それともただ山中にあるからなのか分からないが、とにかく野菜を活かした食べ物が多い。しかしながら、香辛料の味付けがしっかり効いているからなのか、さほど質素という感じはなく、平らげると満腹感がある。今思えば、今回の中国旅行で、この昼食が一番おいしかったように思う。おそらく、寒い山中を歩いてからようやくありついた一杯だったからだろうが。

IMG_3852【2016.2.16】金頂からの景色

 見渡す限り、ずっと山だ。

IMG_3855【2016.2.16】階段

 たくさんの人がいる。もし、人間雪崩でも起こしたら大変なことになるに違いない。しかし、武当山で人間雪崩が発生し、たくさんの死者が出たというニュースは聞いたことがないから、これくらいなら大丈夫なんだろう。

金頂表

 27元(約460円)を支払う。

金頂裏

 それは本当に美しい景色だった。

IMG_3859【2016.2.16】金頂

 あまりにも美しくて、目がうるんでしまう。何が美しいのかというと、その空の青さも、歴史的な建築物もそうだったけれども、空を舞う灰だった。

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【2016.2.16】香炉にお供え物ををいれる人

 入口には香炉がある。たくさんの参拝者がもってきた赤い紙袋に入った紙のお供え物(金紙)を、ここで、係員が受け取り、袋ごと香炉へと放り込む。

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【2016.2.16】香炉にお供え物ををいれる人

香炉の中で燃えさかえる火は、全てを一瞬で、灰にする。

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【2016.2.16】香炉

 それから、香炉は灰を吹き出す。炎に温められた空気は上昇気流を為し、灰を宙高いところへと放り上げる。

IMG_3862【2016.2.16】空を舞う灰

 宙に舞い上がった白い灰が、頭上を降り注ぐ。あたかも雪のようだと思う。晴天に降る雪などないけれども、そういう非現実的な光景をみているような、神秘性を感じる。それが、あまりにも非常に美しいのだ。

IMG_3902【2016.2.16】空を舞う灰

 灰が降り積もって、香炉の屋根は真っ白になっている。時々、香炉の中では燃えきらなかった紙片が火をともなったまま宙を舞うけれども、人の頭の高さに落ちる前に完全に燃え尽きて、それもまた灰となってしまう。
 たくさんの人が赤い紙袋をもって山を登る。そして最後には、このような神秘的な景色を作って消えてしまう。ああ、儚い。人間の信仰というものは驚くほど美しい景色を作る。それは、中国も例外ではない。ああ僕も、紙袋ひとつ携えて、山を登ってくるべきだった。

IMG_3906【2016.2.16】入場を待つ人々

 こうして晴天の雪に降られながら、 たくさんの人とともに扉が開くのを待った。

■武当山旅行記
#0148.武当山旅行記1 - 武当山へと入山する
#0149.武当山旅行記2 - ここは仙人の住む里か
#0150.武当山旅行記3 - 武当山で迎える朝
#0151.武当山旅行記4 - 南岩から金頂へと登っていく
#0152.武当山旅行記5 - 神秘の灰が降る金頂
#0153.武当山旅行記6 - 金頂で大吉を引く
#0154.武当山訪問記7 - 五行糕を食べてからロープウェイで下山する
#0155.武当山旅行記8 - 太子坡、そして下山



 出発する。 それにしても寒い。2月、標高1000mを超える山中。金頂まで行けば海抜1600mを超える。しかし、登山道に氷が張りついていたりとか、そういうことはなかった。真冬には樹氷がみられるほど気温が下がるそうだが、そういう気配はもうなかった。武当山は2月の中旬にもなればもう春なんだろう。
 南岩から金頂までは距離にして約4.5kmとの表示があるが、どれくらいの時間がかかるかは未知数だった。

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【2016.2.16】登山道

 すでにたくさんの参拝客が金頂を目指していた。

IMG_3787【2016.2.16】崖に建てられた建物

 よくみると、崖の奥まった場所に建物が建てられている。最盛期、武当山には2万もの道教関連の建築物が建てられていたというから、こういった建物がもっとたくさんあったのだろう。今も、あの建物は利用されているのだろうか。そもそも、あの建物にはどうやって行くんだろうか。どうやって行くのか分からないところに、どうやって建築資材を運んで、どうやって建てたのだろうか。クレーンも重機もない時代に。

IMG_3799【2016.2.16】寺院

 途中、いくつかの道教寺院を通っていく。

IMG_3800【2016.2.16】登山道

 登山道はよく整備されてて、特別な登山靴は必要にならない。中国人もふだん、街で履いているようなスニーカーで歩いていた。とはいえ、ふざけていると、崖下へと落下しかねない場所もあるので注意が必要だ。

IMG_3804【2016.2.16】南岩宮

 南岩宮が見える。よくもこのような崖の上に、建物を建てる場所を見つけたものだと感心する。
 天気は曇っていたが、それはそれで風情がある。中国で水墨画というものが発達した理由がよくわかる。ある文化圏の美術というものは、その土地のランドスケープを非常によく反映していると思う。

IMG_3806【2016.2.16】氷柱
 
 氷柱がみえる。山道を歩いていると体が温まり、防寒具の下に汗をかくくらいなんだけれども、氷柱をみるとやっぱり寒いんだと思う。

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【2016.2.16】山道

 途中、生活物資を担いで南岩方向へと向かう中国人とすれ違う。生活物資というのは、売店で売るペットボトル飲料だとか、ガスボンベだとかさまざまであった。南岩から先は車両が入れないから、こうやって人が運んでいるんだろうけれども、健脚だなあと感心する。
 山道には時折、売店などがあり休めるようになっている。

IMG_3817【2016.2.16】山道の売店
 
 各売店の2階には鴨などの干し肉がぶらさがっていて、生活感に滲み出している。ちなみにこれらの建物の2階は宿にもなっていて、宿泊することができるようである。「今日有房(今日、部屋あります)」という表示がたくさんみられた。干し肉を眺めながら、山中に宿泊することができるのだろうか。どなたか、挑戦されたし!

IMG_3819【2016.2.16】山道

 半分くらい進むと、階段がずっと続くようになる。南岩から金頂までは距離にして約4.5kmではあるが、その半分は全てが階段なのである。階段を2km以上、進まなくてはならない。そう、山頂へと向かうこと自体が修行なのだ。
 それにしても、中国の人たちは老若男女問わず、健脚だ。普段、街の中を歩いているような身なりでこの階段を休むことなくどんどん登っていくのだ。もし子供がダダをこねたりしたら、お母さんが子供を背負って、階段を登ってしまうのだ。日本人にこのようなたくましさがあっただろうか…。
 たくさんの人たちが赤い紙袋を片手に階段をのぼっていた。最初は何かと思っていたが、のちに、道教寺院で燃やす、紙のお供え物であることが分かった。金紙という、神様に捧げる「お金」なのだ。
 朝天宮というところに到着する。

IMG_3826【2016.2.16】朝天宮

 ここでしばらく休憩する。

IMG_3830【2016.2.16】朝天宮

IMG_3832【2016.2.16】朝天宮

 ちょうどおじさんが林檎を売っていたので、ふたつ買った。ひとつは剥いてもらってその場で食べることにした。ポケットから鍵束か何かを取り出したと思ったら、そのうちひとつが万能ナイフになっていて、器用に皮を剥いて、万能ナイフに串刺しにしたまま渡してくれた。よくみたら、鍵束も一緒についていた。たしかに、その状態でかぶりつけば手は汚れないんだけれども、鍵束ごと食べなさいと渡すのは、なんだか日本では体験できそうもない風情である。林檎はおいしかったけれども、座っていると体が冷えてしまう。さっさと食べて、万能ナイフを返し、金頂を目指した。

IMG_3838【2016.2.16】山道

 だんだんと、空が晴れていく。

IMG_3842【2016.2.16】山道

 そうすると、遠くに金頂の建築群が姿をあらわした。もう一息だ。

IMG_3844【2016.2.16】山道

 とはいえ、見えてからが遠かった。巨岩の間を黙々と登っていかなくてはならない。しかしばててはならない。中国人に負けるものかという大和魂を燃やして、早足で登っていく(笑)

■武当山旅行記
#0148.武当山旅行記1 - 武当山へと入山する
#0149.武当山旅行記2 - ここは仙人の住む里か
#0150.武当山旅行記3 - 武当山で迎える朝
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#0154.武当山訪問記7 - 五行糕を食べてからロープウェイで下山する
#0155.武当山旅行記8 - 太子坡、そして下山



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