ソウル、銅雀区黒石洞(동작구 흑석동)。地下鉄9号線の黒石駅から近く、中央大学(중앙대)のある学生街である。学生街ではあるが、ソウル市内の他の有名大学周辺の学生街と比較するとあまり繁華ではない。学生向けの下宿やワンルームがたくさんあって学生の人口が多いんだけれども、遊ぶところがあまりない。中央大学の学生は、そのことをコンプレックスだと思っているとか。
 僕は、黒石洞のとなりの上道洞(상도동)という町に住んでいたが、黒石洞は地下鉄9号線の黒石駅へ向かう道のりにあったし、学生街の規模が大きくないとはいえ学生向けの価格の安い飲食店はそこそこ充実していたから、よく通った。
 今回紹介するのは、そんな黒石洞の印象的な春の景色である。

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【2014.4.6】黒石洞にて

 黒石洞というのは町名としてはさほど有名ではない。2009年に地下鉄9号線の駅が開通してから知名度を上げてはいるものの、この地名がすべてのソウル市民に通じるとは言えない。けれども、個人的にはとても思い入れのあるところで、この町で過ごした日々を考えると、心がじいんとする。
 黒石駅を下り、中央大学へと向かうと、中央大学附属病院のあるロータリーがあらわれるが、病院の右手の道を、中央大学正門方面へと進む。途中から坂道に切り替わる。だんだん、桜の景色がみえてくる。

IMG_2149【2014.4.2】黒石洞にて

 町名すらよく知られていない黒石洞だから、当然、美しい桜並木があるということも知られていない。

IMG_2150【2014.4.2】黒石洞にて

 周辺の住民がやってきたり、中央大学の学生が講義の合間にやってくるくらいだ。
 韓国の人では桜の花びらが舞い落ちるとき、その花びらが地面につく前にキャッチできれば、その人は幸せになれるという迷信がある。おまじまいのようなものだから誰も本気にはしていないのだけれども、ずっとそう聞かされていると、舞い落ちる花びらに自然と手を出してしまうものらしい。子供も、子供を連れたお母さんも、大学生もみんなそんなことをしながらきゃっきゃと笑い合う。穏やかな春の景色だと思う。

IMG_2156【2014.4.2】黒石洞にて

 桜の木の下には連翹(개나리)が植えられている。韓国の春を象徴する、ふたつの花だ。

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 桜並木のあるところからは、黒石洞を見渡すことができる。

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【2014.4.2】黒石洞にて

 大きなビルのあるところが中央大学で、その手前には学生向けの下宿などが所狭しと立ち並んでいる。

IMG_2191【2014.4.2】黒石洞にて

 きっと講義室からもこの桜並木が見えるに違いない。講義に集中できない学生たちは、窓辺からこっちの方を眺めているに違いない。こんな麗らかな春の日を、黒板だけを眺めて過ごすだなんて不幸なことだから。いや、韓国の大学では黒板はもう絶滅の危機にあって、パワーポイントをプロジェクターに投影する方式に切り替わってしまったから、黒板というよりはプロジェクターを眺めてばかりいるだなんて、と言い換えた方がいいかもしれないが。

IMG_2183【2014.4.2】黒石洞にて

 黒石洞の僕が韓国に行ったら、まず最初に見に行きたい桜並木である。 

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