高速バスで京都から東京へと向かう前に、ひとっぷろ浴びに行く。京都駅周辺で探せばよかったのだが、「冷凍サウナ」という世にも不思議なものがあるというから、京福電鉄北野白梅町駅付近にある衣笠温泉にやってきた。温泉とはいうが、銭湯である。
 住宅街に4階建てのビルがある。これがまるごと、銭湯なのである。

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【2016.5.7】衣笠温泉

 構造はこうなっている。

 4階:小さな露天風呂
 3階:小さな檜風呂、冷凍サウナ(氷点下4度程度)
 2階:サウナ(100度程度)
 1階:深風呂、浅風呂、薬湯、電気風呂(強弱あり)、ジェット風呂、スクリュー風呂、水風呂
 半地下:人工ラドン泉

 脱衣室で服を脱いでから、半地下から4階まで裸で階段を上り下りすることになる。滑って転んでケガをしても、責任はとってくれない。

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【2016.5.7】衣笠温泉

 なんといっても特異なのは冷凍サウナで、これは絶対経験しなくてはならないのだが、奇数日が男子、偶数日が女子であること、そして定休日が金曜日であることには留意しなくてはならない。 
 さて、体を洗ってから1階の風呂を一通り楽しんでから、3階へと向かう。 二人程度しか入ることのできない檜風呂は誰もいなかったので、足を延ばしてゆっくりと浸かる。それからしばらくして、冷凍サウナへと向かう。体に付着したお湯と汗は絶対にふき取ってからご利用くださいとある。そうか、凍ってはよくないのだろうと思い、持っていたタオルでしっかりと拭く。それから、扉を開けようとする。中から、ごおーっという風の流れが聞こえる。冷凍庫の扉を開けるような、そういう気分になる。扉もひんやりと冷たい。おそるおそる中へと入る。おう、これは冷たい。人は誰もいない。氷点下4度だが、冷風機でごうっと凍てつく風を放つことで温度を維持しているためか、空気の流れが感じられて体感温度はもっと低い。サウナにいるのに、真冬、それも寒い朝に、身ぐるみを引きはがされて外にほっぽかれてしまったような、そういう感覚を覚える。全裸での外出という、やってはいけない何かをやっているような緊張感に似たものも覚える。これは、擬似露出体験ではないか。そういえば、儀式として、日本各地で、ふんどし一丁の男が真冬の海に入ったりをする「禊(みそぎ)」というのが行われるけれども、温度から来る感覚としては、今経験している感覚に似ているのかもしれない。これが、冷凍サウナに足を踏み入れてから10秒ほどの間に思ったことである。
 ふと髪を触ると、髪の毛が凍っている。サウナで髪が凍るとは…。壁の説明文には、この冷凍サウナが、医学的にも使用され効果を上げているショック法を倣ったもので、身体によい影響を与えうるとある。そして、「かつて体験したことない温度が身体をきゅっと引き締め、あなたを別世界へと誘います」というようなことが謳い文句がある。本当の別世界へ誘われてしまったら、それは大変なことである。通常のサウナで6分から7分の間、汗を流し、それから冷凍サウナで1分から2分の間、体を引き締めることを3回ほど繰り返すことがすすめられているので、従ってみることにする。余計な脂肪を燃焼する効果もあるらしいが、そうなのだろうか。冷凍サウナに1分ほどいると、まず、足の方がひどく冷えて感覚を失ってくる。耐えきれなくなって、檜風呂に戻り体を強制的に温めるのだが、全身の皮膚がなんとなくピリピリと痺れているのを感じる。一体、何の効果があるのだろう。
 冷凍サウナよりも気温が104度ほど高いサウナで汗を流し、また冷凍サウナに戻ってくる。芯を温かいまま外を凍らせることで、体の中にしっかりと熱を閉じ込めているような、そういう感覚を覚えるようになり、それが案外、気持ちよかったりする。
 最後、3回目に冷凍サウナに戻ってくると、地元の高校生が冷凍サウナの中で、髪を凍らせたり、水で湿らせたタオルを空中で振り、タオルを凍らせようと必死であったが、たしかに、そういうことをしたくなる冷凍サウナである。
 冷凍サウナ。これは、なかなかの別世界であった。みなさんにもおすすめしたい。せっかくこの地球上に、さまざまなことを経験できる人間として生まれてきたのだから、こういう経験はしておきたいものだと思う。
 ちょうど衣笠温泉のすぐ近くに市バスの等持院道バス停があり、21時32分の最終バスの京都行きに乗る。約40分で京都駅に到着する。そして京都駅周辺から高速バスに乗車し、東京へと帰る。

■衣笠温泉
 住所:京都府京都市北区大将軍一条町50
 「等持院道」バス停からすぐ、「大将軍」バス停、京福電鉄北野白梅町駅、等持院駅などから徒歩
 営業時間:午後2時~午前1時
 定休日:金曜日