地球の覗き方

地球のことをのぞいてみよう

カテゴリ:日本 > 岩手県

 外国で生活する際、その国に対する理解は重要であることは言うまでもないが、自国に対する理解もやはり重要である。外国で知り合った人々は、日本に対する率直な疑問をどんどんぶつけてくる。この人は日本人であるから日本に関連することならば、なにか手がかりを持っているはずだと・・・。どの日本人も外国に行けば、本人の意思とは関係なく、日本の「専門家」であることにされてしまう。もちろん、日本人だからといって日本の全てのことが分かるはずもない。日本国民であるからといって、専門家であるとは限らないのだが。

 3年3か月にわたる韓国生活においてもそうだった。彼らは僕に、日本についてとんでもない質問をぶつけてくる。そのような質問のうち特におおかったのが、「混浴は本当にあるのか?入ったことはあるか?」というものだった。男同士集まれば、このような質問は必ずでてくる。歴史問題よりもずっと重要な案件らしい。

韓国人が日本人に「混浴」の話を持ち出す意図には大抵、2つのパターンがある。

・日本には混浴という「野蛮な文化」が残っているらしい。
・日本には混浴という「桃源郷」があるらしい。

 語調に前者のニュアンスを含ませて、質問してくる人に対しては、冷たくあしらっていたのが、案外、後者のパターンもおおく、そのたびに、「あるらしいが、入ったことはない。」と正直に答え、相手をがっかりさせていた。そもそも、混浴を「野蛮な文化」あるいは「桃源郷」という観点から語ることについては、賛否両論があるだろうが、そういう観点から議論を交わしたくなるのが、人間の性であろう。

 2015年10月14日。
 26歳にして、初めて、混浴を体験する機会がやってきた。

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【2015.10.14】網張温泉にて

 網張温泉には、12の湯船がある。男性専用の3つの内湯と2つの露天、女性専用の3つの内湯と2つの露天、そして足湯。これで11箇所。そして、最後のひとつが混浴の露天である。

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【2015.10.14】網張温泉にて

 混浴露天風呂には、「仙女の湯」という名前がついている。仙女か・・・。名前があからさまではないか。「女性の裸がチラ見できますよ。」と言っているようなものだ・・・。やはり、混浴は「エロい」ものなのだろうか。番台はいないので、入浴料300円をあの箱に投入して、左へと進む。

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【2015.10.14】仙女の湯へと続く道

 滑りやすい山道をすすむ。上り坂と、下り坂。所要時間は5分ほど。

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【2015.10.14】仙女の湯の脱衣所

 脱衣所がみえてきた。
 脱衣所は男女別に分かれていて、良心的だと思う。

 湯船は沢沿いにあり、目の前に滝がみえる立派なものであった。頭上の樹々は紅葉している。太陽の光がさしこみ、より一層輝かせている。すばらしい・・・。いつまでも浸かっていたい。(当然のことながら、写真を撮影することはできなかった。)こんどここに来るときは、文庫本でも持ち込んで、本をよみながらこの温泉を満喫してみたい・・・。滝の音、沢の音、風の音・・・。そして、裸。あたかも、自然と一体化していくようだ。

 ちょうどその時は、男性5人と女性1人が同じ湯船に入ったいた。 女性は、巻きタオルしていたし、乳白色の硫黄の濁り湯だったから、入ってしまえば顔を除いて何もみえない。さすがに、湯船を出入りするときはみな、ガードが固かったけれども、性的な雰囲気やら、卑猥な雰囲気やらは微塵もなかった。そもそも、自然と一体化していく感覚の中で、オスやらメスやらという区別はさほど重要ではなかった。これだけ素晴らしいものを、男性だけが、あるいは女性だけが独占してはもったいない。全人類が平等に享受すべき権利じゃないか・・・。その権利の結実としての混浴なのだ。だからこそ、混浴はこの現代社会においても成立しているのであう。

 30分ほど浸かっていた。もっと浸かっていたかったけれども、ph4.0の酸性泉にはそれほど長く浸かってもいられない。こうして、人生初の混浴体験はこうして終わった。さて今後、「混浴に入ったことあるか?」という質問には、どう答えようか。「入ったことはあるけれども、エロさはない。男女の区別を超越したすばらしいものだから、ぜひ、挑戦してほしい。」とでも言おうか・・・。

 なお、この時、着ていた服には硫黄のにおいがこびりつき、次の日、洗濯機を回したところ、すべての洗濯物に硫黄のにおいがうつってしまった。そのため、あれ以来しばらく、東京で硫黄の匂いを漂わせながら、生活している。

■網張温泉への行き方
盛岡駅から岩手県交通、網張温泉行きが8:55、10:45、13:45、14:45発。
所要:1時間 運賃:1140円

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#0002.燃え上がる北東北 - 網張温泉



 今まで、紅葉をみに旅行にでかけたことがあっただろうか。おそらく無かったと思う。そもそも東京育ちの僕には紅葉を観賞しにいくという習慣が無かった。以前、石垣島に行った時、島の人とこんな言葉を交わしたことを思い出す。

島の人「内地の人はお花見、絶対、行くんですか?」
僕「そうですよ。家族同士、親しい人同士、週末、時間を決めて必ずお花見にでかけます。お花見にかこつけて、しばらく会うことのなかった友達にも会うことができて、なかなか便利な習慣なんです。」
島の人「なるほど。紅葉狩りも、やっぱり、同じようにするんですか?」
僕「うーん。紅葉狩りは、少なくとも僕はそうはしませんね。」

 秋の落葉間際の、燃え上がる樹々の姿はもちろん美しいとは思う。しかしながら、ああ問われてみると、僕にとって紅葉は、桜ほど重要ではなかったということに気づく。しかし、今年はなぜか、紅葉を仰ぎにいきたくなってしまった。なぜだろう。3年間、ソウルで生活していたからだろうか。たしかに、ソウルの紅葉は美しかった。秋、気温が急激に落ちていく地域では、ハッとするほど鮮やかに染まる。それと比較すると東京の紅葉はなんだか不完全燃焼だと思う。ソウルで、紅葉のほんとうの美しさに気づいてしまったのだろうか。高速バスで7時間半、東京から北へ500km、盛岡へと向かった。

 岩手県岩手郡雫石町にある網張温泉。

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【2015.10.15】網張温泉にて

 絶景だ。北東北までやってきた甲斐があった。

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【2015.10.15】網張温泉にて

 天気にも恵まれて、幸いだった。

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【2015.10.15】網張温泉にて

 北東北は、人生2回目の訪問となる。2011年の7月に、大学の演習で被災地の復興計画に関するプロジェクトのため、釜石を訪れたのが最後だった。北東北にこれだけ美しい風景があるとは知らなかった。やはり、まだまだ日本を知らないな、と思う。

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【2015.10.15】網張温泉にて

 それにしても寒い。10月中旬にして、すでに盛岡市内の最低気温は4度を記録したという。ここの標高は約760m程度で、盛岡市内よりも650mほど高い。海抜高度が100m上昇するごとに、気温が約0.6℃低下するという法則からすると、すでに最低気温は0度台ということになる。生命が今、燃え尽きようとしている。

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【2015.10.15】網張温泉にて

 網張薬師社という温泉神社も、色彩豊かに囲まれている。

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【2015.10.15】網張温泉にて

 山の上の方はすでに枯木立だった。冬将軍が山から下りてくる。

■網張温泉への行き方
盛岡駅から岩手県交通、網張温泉行きが8:55、10:45、13:45、14:45発。
所要:1時間 運賃:1140円

■網張温泉訪問記
#0002.網張温泉 - 燃え上がる北東北 
#0006.網張温泉 - 人生初混浴体験



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