地球の覗き方

地球のことをのぞいてみよう

カテゴリ: トルコ

 2015年8月15日、早朝。人生で初めて、トルコの地を踏んだ、イスタンブール。
 この日の予定は、ヨーロッパ側にあるアタテュルク国際空港から、ボスポラス海峡を渡り、アジア側にあるサビハ・ギョクチェン国際空港まで行き、トルコ最大手のLCCであるペガサスエアの便で、トラブゾン(Trabzon)に行くことであった。ペガサスエアの便は、日暮れ頃の出発であったから、1日の間、イスタンブールを散策する時間を持つことができた。ちなみに、人生初のトルコであると同時に、人生初のヨーロッパでもあった。

 空港で、メトロに乗って市の中心部まで行くために必要な最小限の円を両替し、タクシン広場(Taksim Meydanı)に向かった。交換比率はタクシン広場周辺の両替所が断然よい。円をリラに替えるということにおいては、「日本文化情報センター」の裏手にある両替商が最も交換比率がよかったと思う。カフェで、サンドイッチとチャーイの朝食を摂り、この新しい街へと繰り出した。

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【2015.8.15】八百屋

 初めてのトルコだけあってか、イスタンブールは僕にとってとても新鮮ばところで、いろいろなものが美しく感じられた。けれども、この街が真に美しい都市なんだなと思わされたのは、八百屋の野菜の置かれ方にあった。赤に緑、赤に緑・・・。なんて、芸術的な置き方をするんだろう。庶民にまでこのようなセンスが浸透しているとは!僕はイスタンブールという街に興奮した。

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【2015.8.15】ジューススタンド

 ジューススタンドの果物の置かれ方も、これもまた芸術的だった。東京に、こんな素敵なジューススタンドがあっただろうか。

 東京からイスタンブールまでは、クアラルンプール経由のマレーシア航空での移動だったため、まずは東京からクアラルンプール7時間半、それからクアラルンプールからイスタンブールまで10時間半もの間、エコノミークラスの狭い座席に密着していなくてはならず、身体は非常に疲れていたはずだが、バックパックを背負い真夏日のイスタンブールの街をどんどん歩いて行けたのは、この興奮のお蔭だったと思う。

 8月15日のイスタンブール散策はとても印象的なものだった。それから、トルコ北東部とグルジアとアルメニアをめぐり、またイスタンブールへと戻ってくる予定だったのだが、その時は早く戻りたくて仕方がなかった。
 そして、17日後の9月1日に、イスタンブールに戻ってくるのだが・・・。トルコの田舎を経験してからのイスタンブールは、「これはなんだかトルコじゃない・・・。」という違和感を伴うものばかりで、初めてイスタンブールの地を踏んだ日のように輝いてはみえなかった。その時の話は、またいつか。 


 トルコ・グルジア・アルメニア18泊22日の旅行も終盤にさしかかり、ガイドブックに載っている観光スポットをひとつひとつ探し歩く、そんな気力はもうなくなっていた。ただただ休んでいたかった。心身共に癒しを求めていた。あまりにも短期間に、あまりにもたくさんの経験に曝されたため、もう受け止めきれないのだ。すでにいっぱいになってしまった桶に、さらにお湯を注いでも、溢れてしまうだけなのだ・・・。

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【2015.8.31】アイデルにて

 そのような状況で、旅行17、18日目に訪れたトルコ東北部の山あいの村、アイデル(Ayder)。村の真ん中に温泉がある保養地だ。村中のいたる所にアラビア文字がみられたから、アラブ系の旅行者が多いものと推測される。きっと、沙漠の民であるアラブの人々が「湿り気」を求めにやってくる、国際的な保養地なのだろう。だからか、トルコの田舎町にしては英語を話せる人に出会える確率が高い。
 もちろん、トルコ各地からの観光客も多いようにみえる。この村を拠点として、周辺の山や湖へとトレッキングにでかける人が多いという。

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【2015.8.31】アイデルにて

 ただただ、爽やかな空気を吸っていればいい。ちょうどよい時機に、この村にやってきたと思う。村の中を散策していると、あるおじさんが「どこから来たのか?」と英語で尋ねてくる。

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【2015.8.31】ラズ人のおじさん

僕「東京だよ。」
おじさん「日本から来たのか。歓迎するよ。調子はどうだい?」
僕「空気が爽やかで、すこぶるいいよ。」
おじさん「そうか。ところで、これやっていくかい?1回、10リラ(約400円)だ。」

 そういいつつ、おじさんは指をさした。

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【2015.8.31】ハーネス

 正式名称をなんというのだろう。空中アスレチックのあれだ。ハーネスを着用して、空中ワイヤーを滑走し、深さ数十メートルにもなる渓谷の景色を楽しめるとか・・・。

おじさん「これはフランスから直輸入したから絶対、安全なんだ。」
僕「へえ。」
おじさん「気が向いたらやってみろよ、爽快だぜ。」
僕「そうすることにするよ。」
おじさん「ところで、俺はラズ人なんだ。」
僕「Laz people?」
おじさん「そうさ。ラズ人は、ふだん、ラズ語(グルジア語の近縁だという)をしゃべって暮らしているんだ。」
僕「じゃあ、おじさんは、ラズ語とトルコ語と英語ができるんだね。」
おじさん「そうだ。でも、トルコ人のようなものさ。旅券はトルコ旅券だしな・・・。」
僕「なるほど・・・。でも、ラズ人なんだね。」
おじさん「ああ。地図をみせてくれ、ラズ人がどこに住んでいるのかをみせてやる・・・そうだ、ここらへんだ・・・。トラブゾンの方まではいかない・・・。この山の裏側にもいない。国境の向こう、アジャリア自治共和国(グルジアを構成する自治共和国のひとつ。中心都市はバトゥミ。グルジアは一般的にキリスト教国家として知られているが、アジャリア共和国にはイスラム教徒も多く共存している。)にも住んでいる。もちろん、アイデルもラズ人のふるさとだ。」
僕「アジャリア共和国なら、昨日寄ってきたよ。」
おじさん「そうか。バトゥミは俺もよくいくぜ。買い物に行くんだ。iPhoneはな、トルコで買うよりも、グルジアで買う方が安いんだ。向こうの方が関税が安いからな。」

 こんなところに、僕の知らない経済圏があった。

僕「おじさんはどこで暮らしてるの?」
おじさん「夏の間はアイデルさ。秋冬春には、海沿いの街にでる。ガラスを販売しているんだ。アイデルはいいぞ、夏の間、数か月働けば、1年の間、暮らすのに十分なお金を稼げる。それもこうやって、村の人やお客さんと語らいながら仕事ができるんだ。毎日がsundayさ。」
僕「いいね。東京で、毎日がsundayの暮らしをするのは難しいよ。」
おじさん「そうだろう。東京はイスタンブールのように忙しい都市さ。まあ、ビジネスをしてお金を稼ぐにはいいだろうね。トルコも日本も同じ、ほら、あれ、キャピタリズムだろ。だから、big cityはビジネスをするにはいいだろうさ。アイデルではbig moneyは手に入れられないよ。」

 さっき売店で買ったばかりの桃にかぶりつきながらおじさんの話を聞いていた。 毎日がsunday。いかに東京にいながら、持続可能な「毎日がsunday」の暮らしができるのか、模索している僕にとっては正直、羨ましいばかりであった。

IMG_8792【2015.8.31】ラズ人のおじさん

おじさん「俺には日本人の友人がいる。イスタンブールの大学でトルコ語を勉強している日本人なのだが、東京は学歴の競争が激しくて大変だって聞くよ。東京大学を目標にみんな必死に勉強するけれども、合格する人はごく少数だって。試験ひとつで人生が浮き沈みする、熾烈な社会だって。」
僕「そうかもしれない。僕だってそんなの、好きじゃない。」
おじさん「そうだよな。各自、自分の好きな生き方をみつけられたらいいのにな。」

アラブ人の青年が通りかかった。
おじさん「空中散歩していかないか?」
アラブ人の青年「怖いから、やめておくよ。」

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僕「ねえ、僕が一回、空中を滑ってみたい。」
おじさん「いいぞ。荷物が気になるまま、リュックサックを背負ったまま、こうやって装着すればいい、そうだ。これでしっかり、固定された。動画を撮りたかったらとってもいいぞ。スマートフォンを両手で持ってだな・・・。みんなやってるぞ。準備はいいか、さあ、跳べ。」

 勢いよく宙へと滑り出した。深い谷底だ。何mくらいになるだろう。 両手にはスマートフォンを持ったまま、宙を滑る。向こうの道端で、トルコ人の家族が僕に向かって手を振っているのがみえる。手を振り返すために、スマートフォンを片手に持ち替えて、左手で振り返す。こんなこと、日本では絶対できないだろうな・・・。「スマートフォンや財布など、落下する可能性のあるものは事前に係員にお預けください。」に決まってる。それにしても気持ちのよい渓谷だ。しかし、空の散策も束の間。歩いて、おじさんのいるところに戻り、10リラ札を渡す。

僕「別に怖くなかったよ、ありがとう。」
おじさん「はははっ。」
僕「そろそろ行くね。」
おじさん「そうか。今から何をするつもりなんだ?」
僕「昼ごはんを食べて、温泉で休んでから、イスタンブールに向かおうと思う。」
おじさん「わかった。元気でな!残りの時間も楽しんで!」

 これがラズ人との出会いであった。 
 このあと、昼ごはんを食べるのだが、そこのレストランの青年ともまた話しこんだせいで、結局、温泉で休む時間をとることはできなかった。まあ、アイデルに到着した前日の夜、温泉は満喫したから、それはそれでいいのだが・・・。


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