地球の覗き方

地球のことをのぞいてみよう

カテゴリ: 台湾

 MRT淡水信義線北投駅から支線に乗り換え、新北投駅まで行く。10分に1本ずつ発着するこの支線は、北投駅から新北投駅までのろのろと走る。

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【2016.4.26】新北投駅にて

 台北市内にある新北投駅。北投温泉街にある。ほのかに硫黄の臭いが漂う。天然のラジウム泉でもあり、放射性ラジウムを含む鉱石が産出もするのだが、これはアジアにおいては秋田県の玉川温泉と、台北市の北投温泉にしかない貴重なものである。
 日本人によって旅館が建てられ、また日本軍の療養所が設けられたことから、温泉街として発展したというし、昭和天皇が皇太子時代に訪問したこともあるという。

IMG_6913【2016.4.26】瀧乃湯

  「瀧乃湯浴室」を訪れる。
 もともと1907年頃に開業したもので、今ある建物は1923年当時に改築された日本式家屋である。

IMG_6914【2016.4.26】瀧乃湯

 入口を入ると番台さんがいる。100TWDを支払う。脱衣所は、浴室と一体化している。つまり、浴槽のある部屋で服を脱いで、服を棚に入れる。靴は服とは別に、棚の下段にしまう。
 
 水温:約44度
 PH値:1.2±0.2

 となっている。温度が高い上に、強酸性である。長い時間、浸かることはできない。番台さんは英語で「長い時間浸かることは危険だ。5分くらい浸かってから、外に出て休憩することを繰り返すようにしなさい」と説明してくれた。
 壁には中国語で、入浴の際の注意事項が記されている。

 ・浴槽にタオルを入れるな
 ・浴槽内で髪を洗うな
 ・浴槽内で皮膚をこするな

 日本の温泉とは変わらない。まず、浴室の奥にあるシャワーで体を軽く洗ってから、温浴すればよい。シャワーからは冷たい水がでてくるので、蛇口から出てくる暖かいお湯と混ぜて、よい温度に調整してからかぶるようにしよう。
 いざ入ってみると、5分も入ってはいられない。すぐ、皮膚が赤くなってしまう。高温のせいなのか、強酸のせいなのか、療法のせいなのかよくわからない。お尻の穴が、ひりひりするような感覚を覚える。肛門回りの皮膚組織はどうやら弱いらしい。

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 浴槽はふたつある。直接、温泉が注がれている、右側の浴槽は温度がかなり高い。左側の浴槽の方がやや低いが、それでも高いことに変わりはない。どの人も、長く入ってはいられない。しばらく入ってから、浴槽回りにマットを敷いて、座ったり寝そべったりして、汗を流す。
 おじさんたちが会話を楽しんでいるが、北京語ではなく台湾語であるため、ちっとも理解できない。時々、外国人もやってくる。日本人もいたので、言葉を交わした。水着を持ち合わせていないから裸で入れる温泉を探さなくてはならなかったと言っていたが、それだけを理由として、こんな高温の、強酸性のキチガイじみた温泉にやってくることがあるだろうか。むしろ、裸で入る温泉こそが真の温泉なのだという日本人の価値観が、ここにやってこさせたのだと思う。

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 高温の強酸性ということで、むしろ、体には有害だと思う。しかし、壊れたテレビも叩くと映りがよくなったりするように、一見、よくないと思われる衝撃を加えることで、かえって、ものが直ったりすることもあるので、人間の体にもそういうことを期待してやってくることにはよいのではないかと思う。
 多くの人が、水やお茶などを持ち込んでいた。果物などを持ち込むのもよいかと思う。とにかく汗がよく出てくるから、水分補給が気持ちよいのである。また、全裸で携帯電話での通話をする人や、全裸で電子書籍専用端末で読書をする人などもいて、日本ではそうできそうもない体験ができるので、ディープな台北を経験するにもうってつけである。

■瀧乃湯
住所:台北市北投区光明路244 
新北投駅から徒歩10分 
入浴料:100TWD
営業時間:午前6時半~午後9時 


 北門(台北府城北門)は、清末の1882年、城壁建設の際、着工され、台北の北の入口として1884年に竣工した。それから1895年に台湾が日本の植民地になり、台北が近代都市として改造するにあたって、城壁や他の門は撤去されてしまうが、この門だけは撤去を免れ今に至り残されている。

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【2016.4.26】北門

 郵便局の前にあって以前に訪れたこともあるが、その時は北門のすぐ後ろの高架道路の影にあって、窮屈そうだった。

IMG_9454【2014.12.26】2014年当時の北門

 それがしばらく見ないうちに高架橋が撤去されていた。
 この高架橋はもともと、台湾鉄道の線路を超えるための高架の道路だったが、1989年に鉄道が地下化されるとともに本来の役割を終えていたという。それを、2014年12月25日に就任した柯文哲市長が景観を損ねるものとして撤去を指示し、2016年の2月7日から2月13日までの1週間という短い間に撤去工事が行われたものだそうだ。39年ぶりに空がよみがえったという。
 周囲には日本植民地時代に建てられた建物なども残っており、台北の新しい観光スポットとして浮上するのだと思う。

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 【2016.4.26】北門周辺

  このような事例をみると、東京都民としては日本橋と、それを覆う首都高速・都心環状線のことを思う。撤去して、空を取り戻そうという議論はあるが、実現するのか分からない。交通の混乱を招くと主張する人もいれば、日本橋の上にコンクリートの大きな橋がかかっている景色を、東京らしい混沌の風景として肯定的な評価をしようというエキセントリックな主張も聞く。僕は、日本橋の上に高速道路がかかっている景色というものは好きにはなれない人間である。高度経済成長は、たくさんの文化的なものを犠牲にして成立したものだと思う。水辺や橋の空がコンクリートで覆われているということを、快適だと思う人がいるのだろうか。交通の混乱については、撤去してすぐは混乱があるかもしれないけれども、やがて最適化するだろうから、あまり問題になるとは思わない。
 「市長のトップダウン」 といえばややもすると民主的ではなく独裁的のような響きもあるが、僕はうらやましいと思う。日本は何事も、行動に移すということを恐れる傾向があると思う。日本橋の空も、北門の空のように回復されてほしいものだ。

■北門
MRT松山新店線北門駅からすぐ 


 昼食は西門町の「鴨肉扁」で食べる。五年前の訪台時、偶然、通りかかって入ったお店なのだがとてもおいしかったので、またやって来た。お店は以前と同じ場所にあったが、改装されておしゃれになっていた。

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【2016.4.26】鴨肉扁

 店名こそは「鴨肉扁」であるが、売られている肉はガチョウである。初めは鴨肉を販売していたが、ガチョウに変えてから売れ行きがよくなったので、それからは天然のガチョウ肉一本なのだそうだ。ただ、店名は変えなかったそうだ。1950年に創業した、伝統のある食堂だ。
 ガチョウ肉の入った麺あるいは、米粉(ビーフン)がそれぞれ50TWD(約165円)である。それと、ガチョウ肉の燻製を一人分注文する。これが100TWD(330円)である。燻製は、店内にある説明板によれば、もも肉や胸肉といったガチョウ肉の部位や、脂の多い部位、少ない部位の指定が可能なようである。脂の多い少ないについては、「肥」あるいは「痩」という漢字で指定が可能である。

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【2016.4.26】ガチョウ肉のビーフンとガチョウ肉の燻製

 出てきた、出てきた。

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【2016.4.26】ビーフン

 特に、スープが本当においしい。ガチョウがらスープとでもいえばいいのだろうか、何杯でも飲みたい。これがたったの日本円で165円しかしないとは恐れ入る。さすが台湾、美食の島。

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【2016.4.26】ガチョウ肉の燻製

 燻製の方は思ったよりも歯ごたえ、弾力があるが、噛むと中からじゅわっと旨味が出てきて、これがたまらない。いくつか、ビーフンのスープの中に入れて食べてみるのもまたたまらない。
 日本で、このくらいの値段で手軽に、ガチョウ肉のスープが飲めたらいいと思うのだが、とてもじゃないが日本では無理であろう。ああ、台湾が羨ましくてたまらない。

鴨肉扁・表
 
 複数人で行けば、もう少し大きなガチョウ肉を注文できるはずだ。

鴨肉扁・裏


■鴨肉扁
 住所:台北市中華路一段98之2號
 営業時間:午前10時~午後10時半
 MRT西門駅から徒歩約5分


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